暑いので・・怪談。
あんまり暑いのでたまには怪談でもしましょうか。
****
数年前、僕が一人でシドニーに旅行に出かけたときのことだ。長期滞在をする予定だった僕は少しでも旅費を浮かせたいと、友人のツテをたどってホームステイをさせてくれるホストファミリーを探していた。
そしてグリーブというエリアにある一人の男性が住む一軒屋が僕のシドニーでのステイ先となったのだった。
少し緊張してドアをノックすると中から60歳前後のひょろっと背の高いやせぎすな男性が顔を覗かせた。「は、ハロー。アイアム・・・」そこまで口に出したところで男性は短く「Come in」とつぶやいて扉を大きく開いた。瀟洒な外観にたがわぬアンティークな部屋が眼前に現れ僕はこれで週$100でいいんだろうか・・と変に萎縮してしまった。
男性はその偏屈そうな外見にそぐわずずいぶんと饒舌に部屋を案内してくれた。
ここがキッチン、バスルーム、ここが君の部屋、そしてここがリネン庫・・こちらは私の書斎・・書斎と私のベッドルーム以外はすべて自由に使ってくれていい。もちろん冷蔵庫や洗濯機もね。
「なんだ案外普通の人じゃん」ほっと胸をなでおろして荷物を自分の部屋に運び入れている途中に・・・僕はまだ案内されていない部屋があることに気づいた。
「あのー。リビングルームの隣のドアは?」
男性の顔に一瞬動揺が走ったように見えたのは光の加減だったのだろうか。
「ああ、あれはピアノの練習部屋なんだよ。今は使ってないんだ。」
そして少し口調を強めて僕に言った。
「ひとつだけ約束をして欲しい。夜の間は決してあの部屋には近づかないでくれ。」
おかしな約束だとはおもったけれど、いわば居候の身だし、何よりその真意を問いただすほどの英語力のない僕は、ただ「イエス」と答えるしかなかった。
ステイ初日。
興奮気味の僕はどうにも寝付けずに何か飲み物でも作ろうと階下のキッチンへと向かった。時刻は深夜12時を少しまわったくらいだろうか。
リビングの前を通り過ぎたとき軽快なジャズピアノの演奏が聞こえた。
「・・おじさん?」
リビングを覗いても誰もいない。
よくよく聞いてみるとピアノはリビングの隣のドアから聞こえている。
昼間の約束なんてどこへやら、僕はそっとドアの鍵穴から部屋の中を覗きこんだ。
誰だろう?金髪でちょっと古臭いドレスを着た女性がこちらに背を向けて踊っていた。
おじさんの知り合いかな?彼女かな?ピアノは使ってないといっていたけれど・・夜に近寄るな、というのはこのことだったのかな?
僕はおじさんのデート現場に遭遇したのだと一人納得して部屋にもどった。
翌朝、アレコレ詮索するのは無粋だと、昨夜の出来事には一切触れずに一日がすぎた。
そして深夜・・またピアノの音が聞こえはじめた。
どうにも野次馬根性が旺盛な僕はまた階下におりて鍵穴を覗く。
やはり金髪の女性がこちらに背をむけて踊っていた。おじさんの姿は僕の位置からは確認できないけれど、どうも女性は誰かと踊っているという風でもない。
少し違和感を感じたけれど、部屋に踏み込む権利も勇気もないし、第一ドアには鍵がかかっているようだった。
そしてステイ3日目の晩。
どうにも妙な気分がしてリビングで夜遅くまで一人でテレビをみていると日付がかわったあたりでまたピアノの音が流れはじめた。
おかしい・・ピアノ部屋はリビングからしか通じておらず、僕はずっとここに腰掛けていた。誰一人この家を訪れたものもなければ、ましてやピアノ部屋に入った人間もいないのだ。
少し躊躇したあと、僕は思い切って例のドアのノブに手をかけた。
ガチッ。
やはりドアには鍵がかかっていていくらガチャガチャノブを回しても開く気配はなかった。
仕方ないのでまたもや鍵穴から中を覗くと。
中は一面・・火の海だった。いや、火の海とみまごうばかりの色だったのだ。
鍵穴から見える室内は燃えるように真っ赤だった。ただ赤一色に染まっていた。
いつもの女性は見当たらず、ピアノの音だけが流れている。
何がなんだかわからないまま、不吉な予感におびえて僕はその場を去った。
翌朝、とうとうがまんできずに家人の男性に聞いた。
彼は約束を破った僕を責めるでもなくいとも簡単に答えてくれた。
「ああ、すまないね。そんなにピアノの音が大きかったかい?毎晩困ったものでね・・。ん?金髪の女性?ああ、それなら私の妻だよ。」
彼に妻がいたということにひどく驚く僕に、彼は淡々と続けた。
「30年も前に死んでしまったんだけどね。燃えるように赤い目をした美しい女性だったんだよ。」
(了)
***
結構有名な話なのでご存知の方もいらっしゃるかしら。
私ははじめて聞いたときに結構怖かったゾ。
Posted by jizou at 2004年07月08日 02:35
| Comments (6)
| TrackBack(0)
| 節約ランキング |